昨年の法改正によって「認定」を取りやすくなったと言われるNPO。認定を取れば、当該NPOに寄付した人・法人(当該法人も含む)は税制上の優遇を受けられるというもので、申請件数の大幅な増加が見込まれています。
しかし、それでもなかなか認定申請件数は十分増えておらず、条例個別指定を取ってから認定申請を目指すというルートが「もっとも合理的だ」とまことしやかに言われています。
それはそうとも言えるし、言えないかもしれないというのが正確なところなんですが、なかなか制度の中身が十分浸透していないために、不正確な理解が広がってしまっているように感じます。そこで、今回は改めて制度の概要を確認しつつ、どのようなルートが合理的なのか。その当たりをザクっと(ちょっと長くなってしまいましたが)まとめてみようと思います。
※じっくり読んでもらうと7~10分くらいかかるかもしれませんので、お時間のあるときにお読みください。
そもそも何故十分に制度が浸透していないのでしょうか?
この点について、以前「制度が一人歩きしている」とお話ししていただいた方がいました。私はそれを聞いて、「なるほど」と思ったんですね。
もともと「認定」を取りやすくした理由には、NPO法人には多くの課題があるからです。資金不足、人材不足などはどこも抱えている課題でして、それらを解決するためにはまずは「寄付を受けやすい社会の制度づくり」が大切と考えられました。そこで法改正に全力投球したのがNPO法人のシーズだったんですね。
シーズの強力な活動によって法改正は実現し、晴れて今年の4月から理想的なNPO法に大きく近づきました。
しかし、先の「制度が一人歩きしている」と言われた方の法改正に対する温度はかなり冷めたものです。なぜでしょうか?
それは、「自分の団体の課題」と「認定」制度とが実感として結びついていないからです。
なんとか「認定」が取れても、「自分の団体の課題」を解決するためには、「認定」を取ったことをアピールしつつ、マーケティングをおこなわなければなりません。当然、そのためには人材が必要です。
そこまでの道のりをやり遂げるだけのスタッフが現時点で存在しない場合にはなかなか辛いところです。「認定取っても仕方がないんじゃないか」って思ってしまうかもしれません。NPOに存在する課題は、実は根本的なこのようなところに存在するのだと私は考えています。
ただ、そうはいってもNPOもまた事業ですから、認定を取ろうが取るまいが、今後も継続しなければなりません。そのためには、様々なルートからできる限り成長する可能性の高いルートを選ぶ必要があります。そして、「認定」をまず目指すというのはもっとも合理的なルートであることには違いありません。
そこで、じゃあどうやって「認定」を目指すか?ということが問題になります。ここで「認定」について要件を見てみましょう。
「認定」取得の要件~PST要件を乗り越える~
「認定」を取るためには次の条件を満たさなければなりません。
- パブリック・サポート・テスト(PST)に適合すること
- 事業活動において、共益的な活動の占める割合が、50%未満であること
- 運営組織及び経理が適切であること
- 事業活動の内容が適正であること
- 情報公開を適切に行っていること
- 事業報告書等を所轄町に提出していること
- 法令違反、不正の行為。公益に反する事実等がないこと
- 設立の日から1年を超える期間が経過していること
このうち、最もクリアが難しいのが①のPST要件です。これは当該法人の活動が公益的で市民の支持を受けていると言えるかどうかを判断するための要件です。
▼参考:「寄付」というのはとても大事な物差しだと思います~茅ヶ崎の市民活動の現場から
少し長いですが、引用します。
「「寄付」はただ単にお金の問題だけではないと思っています。NPOは社会に必要とされることを自分たちのやり方で実現していくことが存在意義。でも、思いが先走ってしまい、どうやって活動を続けていけるかということを、考える余裕のない団体も見受けられます。多くの人から信頼され、共感を得られるように、独りよがりではなく、社会に応えていくために「寄付」というのは、とても大事な物差しになると思います。「寄付」は、活動のあり方を見直す一つのきっかけとも考えられます。」
このように、「認定」申請におけるPST要件の意義は、この社会的意義を測る物差しなんですね。クリアするのはなかなか大変ですが、自分たちの活動を定量的に評価する上で無視できないものなのです(でも唯一の物差しというわけではないのも事実です。)。
さて、このPST要件を満たすには次のいずれかのルートを通らないといけません。
(1)総収入金額のうち、寄付金収入が20%以上であること(相対値基準)
(2)3000円以上の寄付が、年平均100名以上存在すること(絶対値基準)
(3)県や市の条例で、「指定」を受けたNPOであること(条例個別指定)
昨年の法改正で最も注目すべきは(2)の絶対値基準です。
事業収入メインのNPOでも、年平均100名から3000円以上の寄付を2年連続でクリアできれば良いということで、明確な行動指針になります。
しかし、寄付を集められているNPOはもともと多くはありません。最近でこそ、クラウドファンディングも盛んになってきたと一部で言われていますがまだまだ一部です。
そこでNPOとしては(1)か(3)を検討してみますが、そもそも(1)のルートをクリアできない現状を変えたくて(2)が登場したことを考えると、(2)がダメで(1)なら、というルートはなかなか難しいものです(指定管理などやっている場合は別ですが、その辺の詳細については当事務所か専門の行政書士・税理士に相談してみてください。)。
ということは(3)のルートを考えるわけですね。
「条例個別指定」制度とは?「指定」の理解
「認定」も十分に理解が浸透していませんが、「指定」はさらに浸透していません。
「指定」制度は、地方公共団体が条例の中で個別に「この団体は地方税の優遇を認める」と指定したNPO法人に、個人が寄付をした場合、地方税(県の指定なら「県民税」、市の指定なら「市民税」)の一定割合を税制優遇させるというものです。
とはいえ、「認定」と比べるとその魅力はあまり大きくはありません。「認定」の場合には所得税や法人税などの「国税」が大幅に優遇されるのに対し、「指定」の場合には「地方税」がちょこっとだけ優遇されるだけです。
だから、指定を目指す法人はその先に「認定」を目指す必要があるわけです(でなければ寄付は集まらないし、その結果人材も集まらないということです。)。
では、その「指定」を取るためにはどんな要件をクリアしなければならないのでしょうか?
「指定」の要件
指定を受けるためには次の条件を満たさなければなりません(神奈川県を例に)。
- 県内で活動するNPO法人であること
- 公益要件(1)の(2)に該当すること
- 運営組織及び経理が適切であること
- 事業活動の内容が適正であること
- 情報公開を適切に行っていること
- 事業報告書等を所轄町に提出していること
- 法令違反、不正の行為。公益に反する事実等がないこと
- 設立の日から1年を超える期間が経過していること
「認定」に似ていますよね。そりゃそうです。「認定」制度をモデルに「指定」制度が設けられているからです。もっといえば、「指定」制度を作るのは「条例」ですので、各地方公共団体の議会です。その議会が変な制度にしてしまわないように「認定」制度を強く意識するのは自然なことです(「指定」を取れれば「認定」をほぼ取れるんですから!)。
そこで、「指定」特有の要件である「公益要件」を見てみることになります。
次のいずれかに該当すること。
ア 次に掲げる基準に該当していること。
(ア) その事業活動の内容について、次に掲げる基準に該当していること。
a 不特定かつ多数の県民の利益に資するもの
b 特定非営利活動に係る事業が地域の課題の解決に資するもの
(イ) その特定非営利活動について、次に掲げる基準に該当していること。
a 当該特定非営利活動法人の定款に記載された目的に適合した特定非営利活動に係る事業の活動の実績があるとともに、その継続が見込まれること。
b 当該特定非営利活動法人以外の者から支持されている実績があること。
イ 略
これを読んでもパッとしないですよね(笑)
ここではアだけを見ます。次の要件をすべて満たす必要があるわけですが、それぞれの内容は次のとおりです。
◆(ア)-a 不特定かつ多数の県民の利益に資するもの
①原則として、特定非営利活動にかかる事業の支出規模が、実績判定期間(過去2年度)の各事業年度において、総支出額の2分の1以上であること。
②利益を受ける県民が存在すること。
・・・通常は、この要件でこけてしまうことはないでしょう。
◆(ア)-b 特定非営利活動に係る事業が地域の課題の解決に資するもの
次の①か②に該当すること。
①法人の活動が行政の計画、施策の方向性に沿うものであること。
②法人の活動が地域の住民等の要望に対応するものであること。
この要件は、当該NPO法人がどのような事業をおこなっているかによってきます。ただ、「指定管理」や「委託事業」を行っている法人は、この要件を満たしやすいという特徴があります。
この要件がもっとも「指定」ルートの強みだと私は考えています。
◆(イ)-a 定款に記載された目的に適合した特定非営利活動に係る事業の活動実績があり、その継続が見込まれること
次の2つの要件を満たす必要があります。
①当該地域で活動実績があること
②指定期間中(5年間)、人的体制、活動資金の見通し等から、継続的な事業の実施が見込まれる程度に、事業計画等を提出すること
これも問題にならないでしょう。
◆(イ)-b 当該特定非営利活動法人以外の者から支持されている実績があること。
次のいずれかからの支持を受けている必要があります。
① from 行政等
(1) 行政等との協働
(2) 行政等からの助成
(3) 行政等からの表彰
(4) その他行政から支持を受けている実績
② from 企業等
(1) 企業等との協働
(2) 企業等からの助成
(3) 企業等からの表彰
(4) その他企業から支持を受けている実績
③ from 地域住民
(1) 住民の署名
(2) 自治会の推薦
(3) 無償ボランティアの実績
(4) 寄付の実績(★)
(5) その他
④ from 中間支援組織から支持を受けている団体から支持
⑤ from 知事が認める場合
・・・これだけルートがあれば、皆さんの団体も何かしら引っかかるんじゃないでしょうか?このおかげで、「指定」NPOは「認定」以上にどんどん増えることができ、その結果「認定」申請が急増するというのが今後の流れでしょう。
このように、「認定」のPST要件と比較して、「指定」にはいろんなパターンがあることが分かります。このパターンの広さが「指定」制度の独自性であり、「認定」に向けた「指定」ルートのうまみになるわけですね。
このように、「認定」を取るにあたって、「指定」をまず取ろうとすることの意義については何となく分かってもらえたのではないでしょうか。
ただ、ここでもう一言だけ。
「いったいいつ寄付を集めるのか?」ということです。
先にも書きましたが、「指定」をとっても優遇税制は個人の地方税だけです。しかもちょびっと。法人に関してはメリットなし。
もともと「認定」をなぜ取るのかというと、「資金不足」「人材不足」という課題を解決するための手段として、寄付を集めやすい環境をつくることにあります。でも「指定」ルートでは、「指定」を取るために最短で6ヶ月、現在の法人状況によっては、場合によっては3年もかかります。
この間は寄付を集めなくて良いのでしょうか?
だから、「指定」ルートを目指しつつもう一つやらなければならないことがあります。「仮認定」の申請です。
「仮認定」制度とは?
「仮認定」制度とは、字のごとく「仮」の「認定」です。仮免許みたいなものですね。本認定はまだ取れないけど、一定の範囲で「認定」と同じ効果を認める制度を言います。
この制度の良いところは、「PST要件がいらない」のに、「優遇税制を受けられる」という点にあります。
えっ、じゃあ「認定」いらないじゃん!なんて意見が聞こえてきそうですが、そういうわけではありません。次の表をご覧ください。「認定」と「仮認定」の違いをまとめてみました。
まず、「仮認定」の効果は3年。しかも1回ポッキリです。他方で、「所得税の優遇措置がある」「法人寄付の優遇措置がある」という、寄付を集めるに当たっての大きなメリットが「認定」と同様にあるわけです。
まとめ ~「指定」ルートは「仮認定」とセットで~
ここまで読んでくださった皆さま、本当にお疲れさまです。ありがとうございます。
制度の内容について少しでも分かって頂ければ、と思って書きました。
なぜ「仮認定」が3年だけ有効なのか、「指定」を取るまでに3年かかる場合がある事情、最終的に「認定」を目指す意味を総合的に考えると、「仮認定」をすぐにでも申請して、「指定」申請を進める。「指定」が取れた時点で「認定」申請をするという流れが、今の制度を最大限に活用すると言うことになります。
幸い、NPOの申請に手数料はかかりません。自分たちでやるなら、人件費以外はかかりません。専門家に頼んでも1人~2人分の人件費1ヶ月分程度です。しかもそれを済ませれば寄付を集められる環境は整うのですから、必ずペイさせることができます。
かなり長くなってしまいましたが、こういう考えで準備を進めれば最も効率的に、そしてもっとも効果的に準備ができます。しかも一斉に進めることで「指定」「仮認定」「認定」の重複する手間が省けます。是非積極的にご準備ください。
NPOが活躍すれば、社会はもっともっと変わります。
皆さんどんどん社会を変えていってください。